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レンズ千夜一夜

2104 静謐(2019年8月13日フォコター50㎜F1.5がアーシングウッドの気を捉え)



フォコター50㎜F4.5

ライカが用意した引伸機フォコマート用引伸レンズ。
引伸レンズのキングとして知られました。
カルティエ=ブレッソンや木村伊兵衛の名作群も、
このレンズによって作成されたのではないでしょうか?

でも、この名を聴いても、
デジタル時代の写真家はちらっとも関心を示さないでしょう。
すでに、理想のカメラシステムで重武装しておいでになるから。
これを使えば、撮れない時間、撮れない空間はない、
しかも、畳一枚ほどの大伸ばしをしても、粒子など見えないほどに完璧な画像。
これをPhotoshopでさらに念入りに画像処理をしたら、
現実空間を遙かに凌ぐ光彩陸離たる作品を創造することができるのだ。

写真史で偉大な写真家とされる誰をとっても、
私よりも凄い画像なんて撮れなかった。
写真史はゴミ箱にポイしちゃってもいい。
私の作品がすべての名作を遙かに凌ぐことは明らかなのだから。
そうお考えの写真家の皆さんはかなり多いのではないでしょうか?

私は写真史をポイしちゃう気持ちは微塵もありませんが、
人間世界の真実を見事に写し取った偉大な写真家たちの系譜、
一時代を画した写真芸術の時代はすでに終わった、
そう確信しています。

現代のデジタル写真芸術は、それが芸術であると仮定しても、
過去のフィルム写真とはまったく別個独立の表現形式と言うべきです。
一連の画像処理はまさに現実を完全に変容して、
異次元、異相の幻想画像を創造するのですから、
これは完全に異質なプロセスです。
油絵、エッチングのようなアートと同列、同次元の、
ビジュアルアートであって、
なまじリアルな画像を土台にしているために、
油絵、エッチングよりもさらに人間的真実から離隔する、
幻想表現の芸術となりつつある、そう私は考えています。

私は、成人後の半生にわたって、写真を愛してきましたが、
写真家として自分の作品の表現世界を問いたい、
と考えたことは一度もありませんでした。
写真展こそ数回参加しましたが、
私の気持ちは、自分の作品を提示することにはまったくなく、
友人たちと共同作業をする楽しさを味わいたいという気持ちでした。
自分で撮る写真は、終始一貫として私の記憶のよすがでしかないと、
自分でしっかり悟っていたからです。
自己表現の質を世に問うため、
人に見せる写真アートを創造したいという気持ちなど、
いつの時代にも皆無でした。

古いレンズを味わうというプライベートな楽しみ一点張り。
古いレンズを使うと、正確な色再現などとても期待できません。
私の2つのブログも、色再現の正確性など無縁の写真が並びます。
私は平気ですが、見る人は我慢できないでしょう。
「この人、Photoshopの使い方も分からないんだから、
とんでもないど素人だねえ」

実のところ、今更ながらの白状ですが、
私は、自分に芸術的才能など一欠片もないことを自覚しています。
だから、はなから写真家志望など無縁。

音楽、美術を趣味にする方は多いようですが、
生涯専門家として生きる志を立てて、
幼い頃から一心不乱に努力を積み重ねても、
本物のアーチストとして世に認められるのは至難です。
写真でも同様でしょう。
人に感動を与える写真作品を生涯創造し続ける正真正銘の芸術家は、
日本中を見渡しても、おそらく1世代に10人ほどでしょう。
まして、ピカソ、マチス級の真に偉大な芸術家となると、
さて、100年に1人も居るでしょうか?
(いや、一人もいない、そうおっしゃる方もいるでしょう。
でも、私は少なくとも一人、カルティエ=ブレッソンがいる!
そう信じています。だから「1人」)

もちろんアマチュア写真世界があり、
正真正銘の芸術家でなくても、写真表現を楽しむことは、
人生の楽しみとして許された趣味の中でも最高に楽しいものである。
そう言っても良いでしょう。
でも、私は、そのような慎ましい趣味のレベルにさえも
届いていない方がかなり多いのではないか、と疑っています。

20年ほども昔、写真クラブに所属していた頃、
「カルティエ=ブレッソンなんかすでに乗り越えてしまった!」
そう豪語するメンバーがおいでになりました。
自分はろくでもない写真しか撮れないのに!

現代のデジタル写真家の中には、プロもアマも問わず、
同様の気持ちの方が数知れずおいでになるだろうと推測します。
ネットでも、
私同様に、ただカメラに撮ってもらった写真を並べるブロガー女性、
カルティエ=ブレッソンの写真を見て、したり顔で一言、
「まあ、これなら許せると言ってもよいかも知れませんね」

最近もどなたかが書いていました、
「カルティエ=ブレッソンはどうして
あんなぶれたりぼけたりした写真を作品として平気で並べて居るんでしょう?」
この人なんか、最初から分かっていない。
そして、自分が分かっていないことに微塵も気づいていない。
初めてカメラを手にした人でも、ただシャッターを押せば、
曲がりなりにも写真が撮れる時代の人が言いそうなことです。

でも、どんな場合でも同じ事が言えます。
「easy come,easy go.」
と言うと、ちょっと的外れかも知れませんが、
「悪銭身につかず」にちょっと近い感じ。
昔から、あらゆる業は長く苦しい修練によって身に付ける、
これしか方法はありませんでした。
でも、現代のコンピューター技術は、
そうした修行、修練の道とはまったく異なる補完技法を
人間にプレゼントしました。
でも、ただの補完です。
コンピューターで絵を作っても、あなた任せに過ぎません。
でも、イージーな道を辿る限り、高い丘に登ることはできません。

あなたが、本物のアーチストへの道を歩んでいるか、
それとも、ただのデジタル疑似アーチストで満足しようとしているか?
簡単なテストがあります。

どんな処理をしても満足できる結果を得ることができなかったとしましょう。
そんなとき、あなたは次のどちらの方向に努力をしようと考えますか?

① もっともっと歩いて、もっともっと素晴らしい光景を見つけて、
最高の写真をスパッと撮れるようになろう!

② 画像処理ソフトをもっともっと活用して、
凄い作品に仕上げる技術を高めよう。

私は、はっきり予言できます。
①の人には希望があります。
でも、②の人は早晩飽きてしまい、
スパッと別の趣味に移ってしまうでしょう。

プロ、アマを問わず、銀塩の写真家の多くが
究極のデジタルカメラ、究極のデジタル処理に移行していきます。
でも、そのお陰で、彼らの芸術性ははっきり下降線を辿っています。

最近も、かつて、ハノイのようなアジアの都市のたたずまいを
ハッセルSWCで見事に活写していた写真家の近作を
奈良市写真美術館の特別展で拝見しました。
ケバケバしく毒々しいデジタルカラーにのけぞってしまう、
そんなデジタル画像が並んでいました。
銀塩写真時代に横溢していた凜とした気品も静謐な空気感も完全に消え去って、
デジタル色だけが画面から毒々しく飛び出してきて、
私の気持ちを逆撫でする、そんな疑似アートでした。
この人は完全に行き詰まっている、
私はそう感じました。

男と一緒。
色に溺れたら、写真家もお終いですね。

私は、いつも書きます「5つのノー」で撮っています。

ノーメイキング(やらせ、加工しない)
ノーウェイティング(見た途端に撮る)
ノーシンキング(感じたら即座に撮る)
ノーファインダー(ファインダーをのぞいて構図を作らない)
ノートリミング(撮ったままの画像を楽しむ)

私は、カルティエ=ブレッソンに倣って、画像の外側に白枠を入れていますが、
これは撮ったままを意味します。
現在はデジタルカメラですが、
画像補正はレベル補正で、ブログ掲載写真の濃度を整えるだけ。
それでも、デジタル色に勝手に変換されてしまいます。
悔しいし、つまらない。

私のような気持ちの人はまだ健在です。
たとえば、私の親友のRAさんやDAさんは、
今でも銀塩フィルムで撮っています。
私の写真の友人である写真家の林孝弘さんや前田義夫さん、
3月まで師事していた写真家の吉田正さんのような優れた作家は、
今では、デジタル一眼レフで撮り、Photoshopでプリントしているのに、
銀塩時代と変わらない高雅なモノクローム作品を製作しています。

それぞれの人生、それぞれのセンス、芸術観の違いなのでしょう。
でも、私は、上記のような気持ちを譲歩させるつもりはまったくありません。
一口で言えば、
カメラとPhotoshop、この2つのギアを使いこなすとしても、
Photoshopによる加工を優先する作品には無縁の人生を歩みたい。

今回の写真は、フォコター50㎜F4.5による、
神社道アーシングウッドのロボグラフィ。
深みのある表現には、静謐の空間の気を感じるほど。
これはやはり一角の名玉なんだな、と納得。

銀塩時代にも使いました。
他のレンズとは完全に異質、と思えるほど、
重厚な厚みのある写真で、私など、はっきり辟易させられました。
でも、不思議に、ソニーα7で使うと、
過剰気味の重厚感が後退して、
暗部の描出に長けているせいでしょうか、
ライカらしい空気感とまずまずの存在感を醸し出してくれる、
かなり信頼性の高い道具、という印象が強くなってきました。
銀塩フィルムよりもデジタル画像に適した性格のレンズなのでしょうか?
とにかく、これならロボグラフィに安心して使えそうです。





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by Sha-Sindbad | 2019-08-14 21:35 | Focotar50/4.5 | Comments(0)